ケインズ経済学では、不況の原因は有効需要の不足にあると考えます。従って、有効需要は投資と消費からなることから、投資か消費のいずれか、または双方を高めることで有効需要を拡大し不況を克服することになります。いわゆる政府による投資、公共事業の推進が不況対策に効果的であることは論理的な考え方です。しかし、社会が停滞感を克服する方法を公共事業以外に求めることはできないだろうか?その一つの解がイノベーションの推進であり、イノベーションこそが経済発展の唯一の原動力と述べたのが、ケインズと同時代を生きたシュンペーターであります。
日本経済は今、長い停滞期にあり経済が低迷、経済発展が思うように進まない状況にいます。日本ばかりか世界全体が経験したことのない経済停滞・収縮にさらされています。まさにピーター・ドラッカーが言う「断絶の時代」であります。社会は連続的に変化するのが常道ですが時として、連続的な変化ではなく、前時代とは全く異なる価値観や体制を基礎にする社会へ不連続に変化することがあります。例えば、江戸幕府から明治政府へと政権が移る幕末維新の争乱期、第二次世界大戦を境とする社会の常識や制度、生活スタイルの変化等は、前時代と大きく異なるものとなります。いわゆる「時代の断絶」と言えるでしょう。
ところが社会の断絶は、ある価値や制度に基づいた社会はべつの体制を持つ社会に引き継がれ、不連続ながら継続していくことになります。断絶を経験しながら連綿と続いてきたともいえます。この様な観点から新製品や新技術の採用者の累積数と時間の関係を示したグラフ“ロジャーズのS字曲線”を思い浮かべてください。


S曲線グラフの縦軸を成果「社会で生活する人への効用、生活する人の満足度」、横軸を資金(努力)「社会資本を整備するために投じた労力や資金」と考えると、
・勾配が急な箇所は高度経済成長期
・右側の勾配が緩やかな箇所は成熟し、停滞する過程
グラフの右側に行くほど、同じ1単位の努力(資金)を投じても得られる効果(満足度)は小さくなります。これは、ケインズ理論の投資の限界効果が逓減することに当てはまります。こうして社会は停滞することになります。
この停滞を克服する原動力が従来存在したものに新たものを結合すること“イノベーション”に他ありません。そして、その成長軌道は従来のS曲線の延長線上にあるのではなく、全く新たなS曲線が描かれなければならないでしょう。
「枠や慣行の軌道そのものを変更」する非連続的な発展、「不断に古きものを破壊し新しきものを創造する」活動、創造的破壊活動により新たなS曲線を描くことが、イノベーションによる断絶の時代を非連続的発展が実現されることになるわけです。
今我々が経験している断絶の時代、それは社会が新たな発展、変化を求めているといえます。挑戦が歓迎される時代、新たな軌道を作り出すことができた者が勝者と成りうるでしょう。
生コンクリート業界も氷河期に突入!
JIS規格の改正、企業の社会的責任(特にコンプライアンス)、信頼の回復(安全と安心)、今までの枠や慣行の軌道変更が余儀なくされています。その様な最中、コンクリート技術は化学混和剤によって大きく前進しています。
ここ数年の技術進歩(超高強度コンクリート、コンクリートの流動性保持特性、乾燥収縮低減等々…)は著しい次第です。ところが、技術的なイノベーションによる軌道変更ができても、商習慣、倫理観の変革には残念ながら大きな温度差があります。
VE提案は歓迎されるものですが、コスト優先で“安かろう、悪かろう”の類、“材料特性への過度の期待や誤った使用”の比、リスクを正しくマネジメントする視点(生産者と購入者が同等の立場における協議)が必要と思うこの頃です。私自身は幸いに、良き理解者の方々と仕事をする機会が多く有り難く思っております。
折しも、民主党の小沢一郎幹事長の事件、結末は解りませんが…。時代は大きく変わろうとしています。生きにくい時代と嘆くか、イノベーションの可能性にあふれた時代と思うか、その可能性を追求するのは我々自身に他ならないと思います。
日本リスクマネジメント協会正会員CRM 仲田昌弘